インドの古典音楽は、古代の聖典「ベーダ」の詠唱がその起源といわれ、
「神々を讃える讃歌」「祈り」が音楽の源であるようです。
もともとこの音楽は、寺院や宮廷で神に捧げるためや、純粋な楽しみのための音楽として成立していました。
後に中世ムガール王朝時代など、イスラム文化の影響をうけ、宮廷音楽、芸術音楽としてさらに発展していきました。
藩王(ラージャ)は、お城やパレスに特別な音楽ルームを造り、多くの楽士を育てていました。
北インドの古典音楽では、作曲された「曲」の演奏というスタイルではなく、
「ラーガ」と呼ばれるメロディーのかもしだす雰囲気、演奏の即興性に重点を置きます。
ですからいわゆる楽譜はありません。
口伝により継承された伝統に基づき、その場、その時に演奏者は音楽を創っていきま す。
また古来より、超絶的な奏者によるラーガの演奏は、芸術を越える奇跡まで起こしたとまで信じられ、 ある宮廷楽士が、雨のラーガをうたい、実際に雨を呼んだ話など有名なエピソードです。
サンスクリット語での「色」を語源とするラーガとは数百種類のメロディー、旋律をあらわします。
古典声楽や器楽の場合、演奏するラーガを一つ選び、厳格に定められた音楽様式にもとづいて、旋律を描いていきますが、
そこにいかにラーガの情感や奏者の感性が表現されているか、が醍醐味となります。
通奏音専用のドローン楽器「タンプーラ」のかもし出す、
瞑想的な雰囲気、「時間の軸」をキャンパスとして描いていく。
アラープ&ジョールと呼ばれるソロ演奏の後、打楽器タブラと合奏していきます。
弦楽器の起源は、古代の楽器ビーナですが、
14世紀頃のペルシャ語で3弦を意味するセタールという楽器が、シタールのルーツとされています。後に進化し、多くの共鳴弦、リズム弦をもつようになる。
主弦を引っぱることにより、様々なゆり、こぶしをきかせることができます。
ボディーは大型のひょうたんと、チークやトゥーンという木でできています。
打楽器タブラは、古代の両面太鼓パカワージが進化し、低音用と高音用に分けられ、左右一対の形になりました。
多彩な音色を組み合わせ、伴奏のみにとどまらないソロのパートが聴きどころです。
そしてそれらが、お互いのインスピレーションを高めていきます。
楽譜のないこのクラシック音楽は、連綿とつづく伝統的な師弟関係のなか、口伝えにより継承されている無形の文化遺産。
宮廷音楽として繁栄した北インド古典音楽ですが、その歴史の中で、神秘主義者の功績が大きく、
究極的には「ナーダ・ブラフマー」(ナーダ=音、ブラフマー=宇宙、神)を求める、
つまり音楽を媒体として、より次元の高い神秘性を求めていく、
いわばヨーガ(統合)の一つでもあると言われています。